外苑へとゆく日比谷駅の通路には誰も居なかった。地上より流れ込む空気は秋の匂というよりは寧ろ春の誘惑に近い。色づき始めた葉の香に沿って歩く足音は無意識の呼吸音と調和し、この地上の微弱なる胎流となる。
ゆったりと眠り或は柔らかなパンを齧る様を見て金など無くなってしまえばよいと思い、而してまた空腹の孤独がなければ何を共有するのかとも思う。ビルの隙間を飛行船が流れてゆく。ゆったりと笑うような顔は、あれは、未だ見ぬ懐かしい人の記憶だ。